長い順番待ちで、やっと図書館から借りることのできた。
64歳の専業主婦が初めて書いた小説、それが芥川賞を取った、、、それだけでも興味をそそられる。
ところで、この題名は宮沢賢治の詩「永訣の朝」から取ってある。「永訣の朝」は素晴らしい詩で、私も高校で習ったことをはっきりと覚えている。
・・・死の床で妹が兄(宮沢賢治)にせがむ。
「あめゆじゅとてちてけんじゃ」
(雨雪(みぞれ)取って来て)
兄は雪を椀(わん)に取って与える。
妹は「おらおらでしとりえぐも」
(私は私でひとり逝く)
と兄に言う ・・・
そんな緊迫した時と、美しい東北の言葉が織りなす世界が、
ティーンエイジャーの私の胸にグングンと迫って来たものだった。
そんな事を思い出しながら、この小説を読み出した。
すると、
そんな緊迫したシーンとは全然違う世界が展開していた。
心から慕っていた夫が急逝し、夫の病に気付いてあげれなかった自分を責めたり、その反面「その人に合わせて羽をおりたたみその人に合わせて羽を動かす」ことの苦しさもあったと語る。そして強い自我を持たなかった自分を振り返る。
さらに夫を立てるふりをしながら、実は「後ろから操る。内面を支配する。男は女の後ろ盾無くしては不安で仕方がねぐなった」 と、自分が夫を操作していたのではないか、ということにまで思いを巡らす。
また、息子からは「かあさん、もうおれにのしかからないで」と言われたり、娘から久しぶりに連絡があったと喜んでいると、「お母さん、お金貸して」と催促される。
そんな葛藤の嵐をくぐり抜け、秋空のような爽快で澄み渡った心の結論は、
「おあらおらでひとりいぐも」
美しくも暖かな東北弁と標準語が織りなす世界は、一人生きて行く覚悟と共に、さらに自由な生き方を求める全ての女性にとって、本当に勇気の湧く、語り小説であると思う。